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宇宙から帰ったら「立てなくなる」!? ― 心拍変動が示す、自律神経と重力の知られざる関係 ―

こんにちは!こころです。
AIと一緒に、研究に役立つ心拍変動解析の情報をお届けしています。
今回は宇宙飛行士のデータから起立について考えたいと思います。
わずか10日間の宇宙滞在でも、帰還した宇宙飛行士の多くは立ち上がった瞬間にめまいや血圧低下を経験するそうです。
Blaberら(2004)は、宇宙飛行前後の心拍変動(HRV)を解析し、帰還後に自律神経反応が著しく鈍化している報告があります。
宇宙という極限の環境で見えた変化は、私たちの身近な生活──座りっぱなしの時間の増加や、活動の減少──にも通じるものがあるのではないでしょうか。

Heart rate variability and short duration spaceflight: relationship to post-flight orthostatic intolerance
心拍変動と短期間の宇宙飛行:帰還後の起立性不耐症との関連

Journal Name & Publication Year(雑誌名・出版年)
BMC Physiology, 2004年

First and Last Authors(第一著者・最後の著者)
First Author: Andrew P Blaber
Last Author: Mahmood S Kassam

First Affiliations(第一所属)
School of Kinesiology, Simon Fraser University, Burnaby, BC, Canada

Abstract(要旨)
宇宙飛行後、多くの宇宙飛行士が起立性不耐症(OI)を経験する。本研究では、心拍変動(HRV)を用いて、宇宙飛行後にOIを経験した宇宙飛行士と経験しなかった宇宙飛行士の間で、心臓の自律神経制御に違いがあるかを検討した。10分間の起立テストによるHRVデータを用いて、計29名の宇宙飛行士について、宇宙飛行前(10日前)、帰還当日、および3日後の3時点で比較分析を行った。

Background(背景)
宇宙飛行後の起立性不耐症の原因として、自律神経系の心血管制御機能の変化が疑われている。過去の研究では、宇宙飛行後に交感神経活動の低下、副交感神経活動の低下、あるいは両者の変化が報告されているが、そのメカニズムは不明である。さらに、帰還後のOIに対する感受性は、宇宙飛行前の自律神経状態に起因する可能性もある。

Methods(方法)
対象は29名の宇宙飛行士で、宇宙飛行期間は8〜16日間。宇宙飛行前10日、帰還日、帰還後3日目に10分間の起立テストを行い、RR間隔の心拍変動データを取得。コースグレイニングスペクトル解析(CGSA)により、全体パワー(PTOT)、高周波成分(PHI)、低周波成分(PLO)を算出。PHI/PTOTを副交感神経指標、PLO/PTOTを交感神経指標、PLO/PHIを交感副交感バランス指標とした。

Results(結果)
宇宙飛行士は、起立テスト完遂群(finishers)21名と、途中で中止した群(non-finishers)8名に分類。
Pre-flight(宇宙飛行前):non-finishersは、supine状態でPHI/PTOTが有意に高かった(p < 0.001)。
Landing day(帰還当日):non-finishersはPHI/PTOTが減少し、PLO/PTOTの起立による増加が消失。
3 days post-flight(帰還3日後):同様の傾向が続いた。
PLO/PHI(交感副交感バランス)は常にnon-finishersで低く、空間飛行の影響を受けなかった。

Discussion(考察)
pre-flightで副交感神経活動が高い宇宙飛行士は、帰還後に起立性不耐症を起こしやすい傾向。
起立に対する交感神経応答(PLO/PTOT増加)が維持されたのはfinishersのみ。
性差が結果に影響した可能性(non-finishersの大半が女性)。
自律神経の基礎的な違いが起立性不耐症のリスクに関与していると示唆される。

※AIツールであるConsensus(研究論文の要約)およびPaper Interpreter(Japan)(日本語での論文解釈)を活用して作成しました。原文をご覧ください

起立負荷と自律神経応答の評価方法

論文では、宇宙飛行前後に10分間の起立試験(stand test)を実施し、HRVを用いて自律神経応答を解析しています。
解析指標は、きりつ名人で用いるLF(交感神経)・HF(副交感神経)・LF/HF比(交感・副交感バランス)と対応しており、宇宙飛行士を以下の2群に分類しました。

  • Finisher群:着地後も10分間起立を維持できた者

  • Non-finisher群:起立維持できず失神または前失神に至った者

状況 Finisher Non-finisher
起立時LF/HF 上昇(正常な交感神経反応) 上昇せず(反応鈍化)
安静時HF(副交感) 通常範囲 高値(過剰副交感トーン)
起立時反応 正常な交感活性化 交感反応の欠如

安静時に副交感優位である人は、起立刺激時に交感反応が立ち上がりにくいという傾向。

宇宙飛行=“重力刺激の欠如”モデル

著者らは、無重力環境による「重力刺激の欠乏」が交感神経系の反応性を鈍らせるとしています


 きりつ名人での応用視点

Blaber論文での概念 きりつ名人での対応指標
Supine PHI/PTOT(安静副交感) 安静CVRR・安静ccvHF
PLO/PTOT(交感反応) 起立ccvLH・ΔCVRR・ΔccvLH
PLO/PHI(バランス) ccvL/H比(交感・副交感比)
起立保持不能(Orthostatic intolerance) 起立反応鈍化タイプ(予備力低下型)

この研究を応用すれば、きりつ名人の起立時自律神経反応(ΔCVRR・ΔccvLH)を「地上版・無重力適応試験」として位置づけられます。
宇宙という極限の環境で、重力を失った体はわずか10日間で“立ち上がる力”を失っています。
その変化は、地上で長時間座り続ける私たちの体にも、静かに起きているのかもしれません。
Blaberらの研究は、「重力と自律神経の関係」を示す象徴的な実験であり、きりつ名人が可視化している起立反応の意味を科学的に裏付けるものではないでしょうか。

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