
こんにちは!こころです。
AIと一緒に、研究や臨床の現場で役立つ心拍変動(HRV)解析の論文をご紹介しています。
「HRVの値は、そもそもどれくらい安定しているの?」
という疑問に答えてくれる、再現性に関する基礎研究をご紹介します。
今回取り上げる研究では、健常者で 5分間のHRV記録を2回繰り返して比較 し、
RMSSD(CVRRのもとになる指標)を含む主要なHRV指標が非常に高い再現性を示す ことが示されています。
特に立位では相関が r > 0.9 と、
「同じ人なら、同じ条件でほぼ同じ値が得られる」ほど安定していました。
これは、きりつ名人のように 短時間で自律神経の変化を捉えるツール において、
“そもそも使う指標が信頼できる” という重要な土台になるエビデンスです。
それでは、この論文のエッセンスを見ていきましょう。
健常成人における安静時および体位変換後の心拍変動指標の再現性
Title(英語 & 日本語)
Reproducibility of heart rate variability parameters measured in healthy subjects at rest and after a postural change maneuver
(健常成人における安静時および体位変換後の心拍変動指標の再現性)
Journal Name & Publication Year(誌名・発行年)
Brazilian Journal of Medical and Biological Research(Braz J Med Biol Res)
2010年発行(Volume 43, Number 10, pp. 982-988)
First and Last Authors(第1著者と最終著者)
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第1著者:E.M. Dantas
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最終著者:J.G. Mill
First Affiliations(第1所属)
Departamento de Ciências Fisiológicas, Universidade Federal do Espírito Santo, Vitória, ES, Brasil
Abstract(要約)
この研究は、心拍変動(heart rate variability, HRV)の短時間記録指標が、同一健常者でどの程度再現性をもつかを評価したものです。対象は20~49歳の健常成人30名(男性14名)で、デジタル心電計(サンプリング周波数250 Hz)を用いてR-R間隔を記録しました。最初に仰臥位で10分間、その後立位で10分間記録し、この一連の測定を2~3時間後に同条件で再度実施しました。
HRV解析は時間領域(pNN50, RMSSD, SDNN, NN variance など)と周波数領域で行い、周波数解析ではlow frequency(LF, 0.04–0.15 Hz)とhigh frequency(HF, 0.15–0.4 Hz)成分を、自己回帰(autoregressive)法(モデル次数16)で求めました。再現性評価には線形回帰(Pearson相関係数)、分散の差の検定(Pitman test)、およびBland-Altman法による「agreement limits(平均±2SD)」を用いました。
結果として、pNN50、RMSSD、LF、HF、LF/HF比といった主要なHRV指標は、体位にかかわらず良好な再現性を示し、とくに立位では相関係数がr > 0.6と高くなりました。一方で、仰臥位におけるSDNNとNN varianceのみ再現性が不十分でした。全体として、短時間の間隔(2~3時間)で同一個人を測定する条件では、HRV指標は良好な再現性を持ち、とくに立位で交感神経活動が高まっている状況の方が、指標の再現性が高まると結論づけています。
Background(背景)
心拍変動は、心臓への自律神経調節、とくに交感・副交感神経バランスを非侵襲的に評価できる指標として広く用いられています。HRVの低下は、糖尿病、高血圧、心不全、冠動脈疾患など様々な疾患で認められ、突然死を含む心血管イベントの予測因子とされています。
一方で、HRVは環境条件(温度・騒音)、精神的ストレス、体位などの影響を強く受けるため、同一個体を縦断的に評価する場合に、測定値がどの程度再現されるか(再現性)が重要な問題となります。これまでの研究では、長時間(24時間ホルター)記録や短時間(5~10分)記録で、時間領域指標の再現性は概ね良好と報告される一方、スペクトル指標(とくに短時間記録)の再現性は一貫しておらず、賛否があります。
さらに、多くの先行研究は仰臥位でのみ記録しており、tilt test や立位など体位変化を伴う状況での再現性は十分検討されていません。本研究は、健常者を対象に、仰臥位と立位それぞれで短時間HRV記録を2回取得し、時間・周波数領域の両方で再現性を比較することを目的としています。
Methods(方法)
対象
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健常ボランティア30名(男性14名、女性16名)
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年齢:20~49歳、平均28歳
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服薬なし
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すべての参加者からインフォームドコンセント取得
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倫理審査承認番号:041/2006(UFES・Center of Health Sciences)
心電図記録条件
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デジタル心電計(Micromed, Brazil)
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サンプリング周波数:250 Hz
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ソフトウェア:Wincardio 4.4a を用いてR-R間隔を自動抽出(主に第II誘導)
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誤検出・期外収縮は手作業で除去
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記録時間帯:午前8:00~12:00
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前日からの絶食:12~16時間
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自発呼吸、静かな室内、室温21~24°Cで測定
測定プロトコル
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仰臥位で5分休息
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仰臥位で10分間の心電図記録(Recording 1)
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立位へ体位変換後、11~12分間の心電図記録
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立位記録の最初の1分間は急性な体位変化の影響を避けるため除外
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同一被検者について、2時間後に同一プロトコル(Recording 2)を繰り返し
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測定間には飲食・カフェイン・喫煙は一切禁止
HRV解析
時間領域
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平均心拍数(HR, bpm)
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平均NN間隔(NNi, ms)
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NN間隔分散(NNv, ms)
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NN間隔の標準偏差(SDNN, ms)
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NN50から算出されるpNN50(%)
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隣接NN差の2乗平均平方根(RMSSD, ms)
NN間隔の有効範囲
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仰臥位:0.6~1.6秒
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立位:0.4~1.4秒
有効範囲外のR-R間隔が30%以上あった場合は解析から除外し、仰臥位で1名、立位で2名が除外され、最終的に仰臥位29名、立位28名のデータが解析対象となりました。
周波数領域
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LF:0.04–0.15 Hz
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HF:0.15–0.4 Hz
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単位はnormalized units(nu)
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解析法:自己回帰パワースペクトル解析(モデル次数16)
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MATLABベースの自作ソフトウェアを使用
統計解析
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正規性検定:Shapiro-Wilk
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等分散性:Levene test
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非正規分布の変数には、逆数、平方根、対数、立方、逆平方根などの変換を検討
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再現性評価:
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Pearsonの相関係数による線形回帰
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Pitman testによる分散差の検定
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Bland-Altmanプロット(平均±2SDをagreement limitsとする)
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仰臥位と立位の比較:対応のないt検定またはWilcoxon rank-sum test
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測定1と測定2の比較:対応のあるt検定またはWilcoxon matched-pairs signed-rank test
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有意水準:P < 0.05
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使用ソフト:STATA/SE 10.1
Results(結果)
1. 時間・周波数領域指標の平均値(Table 1)
仰臥位では、Recording 1と2の平均値は概ね近似していましたが、HRとNNiのみRecording 2で有意差がありました(HR 65 ± 1.9 vs 63 ± 1.7 bpm、NNi 936 ± 27.6 vs 962 ± 25.9 ms)。立位では、すべての指標でRecording 1と2の間に有意差はありませんでした。
体位比較では、立位に移行すると以下のような変化が認められました(いずれもP < 0.05):
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HR:仰臥位 65 ± 1.9 → 立位 84 ± 2.2 bpm(Recording 1)
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NNi:936 ± 27.6 → 727 ± 19.8 ms(Recording 1)
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pNN50:28 ± 3.9 → 6 ± 1.5%(Recording 1)
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RMSSD:66 ± 7.6 → 32 ± 4.6 ms(Recording 1)
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LF(nu):49 ± 3.8 → 79 ± 3.1
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HF(nu):47 ± 3.9 → 16 ± 2.2
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LF/HF比:1.99 ± 0.69 → 13.33 ± 3.51
これらは、立位での交感神経優位・副交感神経活動低下を強く反映する変化です。
2. 再現性(相関解析:Table 2)
Recording 1と2の間のPearson相関係数は、ほとんどの指標で高値を示しました:
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HR:仰臥位 r = 0.9269、立位 r = 0.9130(変換不要)
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NNi:仰臥位 r = 0.9240、立位 r = 0.8865
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NNv:1/√変換後、仰臥位 r = 0.8529、立位 r = 0.7476
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SDNN:1/変換後、仰臥位 r = 0.8529、立位 r = 0.7476
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pNN50:仰臥位では√変換でr = 0.8255、立位では対数変換でr = 0.8559
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RMSSD:1/√変換後、仰臥位 r = 0.8432、立位 r = 0.9119
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LF:仰臥位 r = 0.7506、立位では立方変換後 r = 0.8919
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HF:仰臥位 r = 0.7400、立位では対数変換後 r = 0.7941
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LF/HF:仰臥位で√変換 r = 0.6654、立位で対数変換 r = 0.7772
すべての相関係数のP値は <0.0001 であり、統計学的に非常に強い再現性が示されています。
3. Bland-Altman解析・Pitman検定(Figure 1)
Figure 1(p.5)は、Bland-Altman解析の結果を示しており、
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Figure 1A:仰臥位(supine, s1 vs s2)
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Figure 1B:立位(orthostatic, o1 vs o2)
について、SDNN、LF、HF、LF/HF などの指標の「平均値と2回の差」がプロットされています。ほとんどのデータ点はagreement limits(平均±1.96 SD)の範囲内に収まっており、測定1・2の間に系統的な偏りは小さいことが示されています。例外として、仰臥位のSDNNとNNvにおいて数例がagreement limitsの外側に位置し、この2指標に限って再現性がやや低い可能性が示唆されました。
Pitman検定においても、分散の有意な差(P = 0.022)が認められたのは、仰臥位でのSDNNとNNvのみであり、その他の指標ではP > 0.05で、測定1・2の分散に差はなく、十分な再現性が確認されました。
Discussion(考察)
本研究では、厳密に管理された環境(一定の室温、静かな部屋、午前中の測定、長時間の絶食、自発呼吸)下で、同一の健常者から短時間間隔(約2時間)の2回測定を行うことで、HRV指標の再現性を検証しました。その結果、時間領域・周波数領域のほとんどの指標が良好な再現性を示し、とくに立位で相関係数が高くなりました。
体位変化によって、立位では交感神経活動が増加し、副交感神経活動が低下するため、HRV指標は大きく変化します。具体的には、pNN50やRMSSDなど副交感神経優位を反映する時間領域指標が大きく低下し、LF成分が増加、HF成分が減少し、LF/HF比が1.99 ± 0.69から13.33 ± 3.51へと大きく上昇しました。これらは、立位での交感神経優位という生理学的予想と一致しています。
著者らは、仰臥位でのHRV指標は、精神状態や眠気、外的ストレスなど交感神経活動を変動させる要因の影響を受けやすいため、同一個体内変動が大きくなりやすいと考察しています。一方、立位では交感神経活動が持続的に高まることで、これら外的要因による変動が相対的に小さくなり、HRV指標の安定性=再現性が高まる可能性が示唆されました。
また、先行研究で再現性が低いと報告された要因として、測定間隔が1~2週間、あるいは数か月と長かったこと、測定時刻が朝・昼・夕方と異なっていたことなどが挙げられ、本研究のように短時間間隔・同一条件で測定を行うと再現性は大きく改善されると議論しています。
最後に、ガイドラインが推奨する5分記録ではなく10分記録を採用した理由として、アーチファクトや除外すべきR-Rが一定数含まれることを考慮し、解析に十分な5分間の「有効データ」を確保するためであると説明しています。
Novelty compared to previous studies(先行研究との違い・新規性)
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体位(仰臥位 vs 立位)による再現性の直接比較
多くの再現性研究は仰臥位のみ、あるいは長時間ホルター記録に限られていましたが、本研究は短時間記録で仰臥位と立位を同一プロトコルで比較し、立位の方が再現性が高いことを定量的に示した点が新規です。 -
短時間間隔(約2時間)での同一個体内再現性の評価
先行研究の多くが日をまたいだ測定(1~2週間、数か月後)で再現性を評価していたのに対し、本研究は同一日の午前中に2回の測定を行い、環境・日内変動の影響を最小限にした条件で、HRV指標が高い再現性を持つことを示しています。 -
時間領域・周波数領域の多数の指標を包括的に解析
HR、SDNN、pNN50、RMSSDに加え、LF、HF、LF/HFなどのスペクトル指標すべてについて相関解析・Bland-Altman解析・Pitman検定を組み合わせて評価している点も特徴です。 -
自由呼吸下でも十分な再現性を示したことの確認
一部の研究では再現性向上のため強制呼吸を行っていますが、本研究は自発呼吸下でも外的条件を慎重にコントロールすれば高い再現性が得られることを示しました。
Limitations(限界)
論文中および内容から読み取れる限界点は以下の通りです。
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対象が健常成人のみ
糖尿病や心不全、神経疾患など自律神経障害を有する患者では同様の再現性が得られるか不明であり、著者らも追加研究の必要性を述べています。 -
測定間隔が短時間に限られる
約2時間という短い間隔での再現性は確認されたものの、日をまたいだ再現性(例:翌日・数週間後)については評価されていません。これは先行研究との直接比較においては一長一短があります。 -
自発呼吸であり呼吸数の統一はしていない
呼吸周期の外的コントロールは行っていないため、HF成分など呼吸性変動に敏感な指標には被検者間の呼吸パターンの差が残存している可能性があります(ただし、それでも再現性は高かったという点が本研究のメッセージ)。 -
サンプルサイズが比較的少数(N = 30)
健常者30名、解析対象は仰臥位29名、立位28名であり、統計的には十分ともいえますが、年齢層や人種背景が限定されているため一般化には注意が必要です。 -
単施設研究であること
すべてのデータが同一施設・同一装置で取得されており、多施設・異なるデバイスを跨いだ再現性は検証されていません。
Potential Applications(応用可能性)
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縦断研究や治療介入研究における測定条件の最適化
同一個体でHRVを繰り返し測定する臨床試験や介入研究では、立位での短時間記録を用いることで、交感神経優位の状態下でより再現性の高い指標が得られる可能性があります。 -
自律神経評価の標準プロトコルの検討材料
HRVガイドラインでは5分以上の記録が推奨されていますが、本研究のように10分記録からアーチファクトを除去する方法や、仰臥位と立位の組み合わせなどは、標準化プロトコルを作る上で参考になります。 -
交感神経優位状態のモニタリング
立位でLF/HF比が大きく増加し、その再現性も高いことから、起立試験や軽度のストレス負荷時の交感神経評価において、短時間HRV計測を繰り返し行う場面で有用性が期待できます。 -
将来的な患者群研究の基盤データ
健常者での基準となる再現性データが得られたことで、今後、糖尿病、心不全、高血圧など自律神経異常を伴う患者群における再現性低下の有無を検証する際の比較対象として利用できます。
※AIツールであるConsensus(研究論文の要約)およびPaper Interpreter(Japan)(日本語での論文解釈)を活用して作成しました。原文をご覧ください
RMSSDとCVRRの違いと“ゆらぎ”の共通点
RMSSDとCVRRは計算式こそ異なりますが、どちらも
拍動ごとの短い時間スケールのゆらぎ(beat-to-beat variability) に基づく指標です。
■ RMSSD の計算式
連続する RR 間隔(IBI)の差の自乗平均の平方根:
👉 主に 副交感神経の瞬間的な活動を反映する指標。
■ CVRR の計算式
RR間隔の標準偏差を平均RRで割った変動係数:
※SDNN = RR間隔の標準偏差
👉 交感・副交感を含む自律神経活動全体の短期ゆらぎ を反映。
■ 2つの指標の共通点
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どちらも“拍動と拍動の間の変動”に基づく 短期HRV指標
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条件が揃っていれば 日差・時間差で安定(=再現性が高い)
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反応が出たときは「本当の生理的変化」である可能性が高い



この論文で、RMSSDで示された
「短時間でも非常に安定して測定できる」 という特徴は、
同じ短期ゆらぎを扱う CVRR にも応用でき、
きりつ名人でCVRRを用いる妥当性を裏付ける重要なエビデンス になります。






