心不全における反射性循環調節

「第2回臨床自律神経機能Forum 抄録」

■麻野井英次 (大阪大学国際医工情報センター 慢性心不全総合治療学共同研究講座)
恒常性維持のために循環調節系は、動脈圧をモニタして自律神経系を介して血圧を一定に保つ負帰還システム(動脈圧反射)を有し、呼吸調節系は動脈血の二酸化炭素分圧(PaCO2)をモニタし、換気量を介してCO2を一定保つ負帰還システム(中枢性CO2化学反射)を形成している。末梢臓器への酸素運搬能が低下した心不全では、交感神経活動およびCO2化学感受性が増大しており、呼吸・循環系機能を亢進させる方向へ調節系がリセットされている。
1)動脈圧反射の減弱
交感神経活動の亢進に関わる動脈圧反射機能の臨床的解析はまだ不十分である。その理由は、1)血圧変動の速さによる圧反射ゲインの変化、2)圧反射の負帰還システムの影響、3)迷走神経圧反射と交感神経圧反射の分離など、を考慮した解析がなされていないためである。今回、動脈圧反射における迷走神経反射と交感神経反射機能を分離した臨床成績を示す。
2)心拍変動による迷走神経機能評価
吸気時には横隔膜神経活動と同期して迷走神経系が遮断される(ゲート効果)ため、心拍変動は迷走神経活動の基礎値だけでなく換気の大きさにも関連する。従って、心拍変動からみた迷走神経活動は、心拍変動の高周波成分の大きさだけでなく、換気量を入力-心拍変動を出力としたゲインで定量する必要がある。
3)化学反射と交感神経活動の相互関係
中枢性CO2化学反射と血漿ノルエピネフリン濃度には有意な正相関が認められる。両者の密接な関係は、動脈血二酸化炭素分圧が上昇したとき呼吸が増大するだけでなく、交感神経活動も同時に亢進することからも明かである。心不全におけるCO2化学反射の亢進機序には、中枢性交感神経遮断により化学反射が抑制されることから、交感神経活動により化学反射が亢進する悪循環の形成がある。
4)化学反射と圧反射の相互関係
動脈圧反射と化学反射には相互抑制的な関係がある。事実、心不全患者においてO2化学受容器感受性と動脈圧反射機能には、有意な負の相関が認められる。これは、頸動脈体からの求心路は圧受容器からの求心路と同様に延髄孤束核に入るため、両者が拮抗的に干渉するためと考えられている。従って、心不全にみられる動脈圧反射の障害は延髄において直接的に、また交感神経活動を介して間接的に化学反射を亢進させている可能性がある。
5)肺伸展反射による交感神経制御
心不全における肺動脈圧の上昇や間質のうっ血は、肺に存在する機械的伸展受容器により感知され、迷走神経求心路を介して呼吸様式を修飾する。肺の機械受容器は4種類ありそれぞれ呼吸様式への作用が異なるため、これらが同時に作動すると呼吸は速く浅い不規則な呼吸になりやすい。このような浅く不安定な呼吸は肺伸展反射を介する交感神経の抑制効果を減弱させる。

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