第2回臨床自律神経機能Forum
■阿部将之1), 小川佳子2), 三浦平寛1), 田澤泰3),森信芳3)伊藤 修4), 上月正博1)
1) 東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野 2) 帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科
3)岩手県立胆沢病院呼吸器内科4)東北医科薬科大学医学部リハビリテーション学
【はじめに】
慢性疾患運動療法では、無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold; AT)の強度での運動が推奨されている。ATレベルの設定には、換気性作業閾値(Ventilatory Threshold; VT)を用いるのが一般的であるが、VTを求めるためには呼気ガス分析を行わなければならない。近年、より簡便にATを求める方法として、漸増負荷運動中の心拍変動(Heart Rate Variability; HRV)が利用できるのではないかといわれている。そこで、本研究では漸増運動負荷中のHRVの周波数解析からATレベルが推測できるかどうかを検証した。
【対象】
健常な若年成人男性25名(平均年齢27.6 ± 3.5歳)
【方法】
自転車エルゴメータを用い、20W/分の直線的漸増運動負荷症候限界まで施行し、HRV解析(「Reflex名人@」(クロスウェル社)を使用)と呼気ガス分析を運動負荷試験中に同時に行った。
【結果】
副交感神経活動の指標である高周波成分(High Frequency Power; HF)は、全ての被験者において運動負荷開始とともに徐々に低下し、その後運動強度が増加しても低下せずに一定となった。この運動負荷量が増加してもHFが変化しなくなるポイントをHFの閾値(HRVT-HF)とし、HRVT-HF時と呼気ガス分析より求めたVT時のV(・)O2と心拍数を比較したところ、両者には正の相関が見られたが、前者の方が後者よりも高かった。
【まとめと今後の展望】
本研究の結果より、HRVの周波数解析、とくにHFの変化からATレベルを推測できることが明らかになった。ただし、HRVT-HF時の運動強度や心拍数をATレベルの指標としてそのまま用いると過大評価になってしまうので、回帰式を用いた補正が必要である。
HRVの周波数解析装置は、呼気ガス装置に比べ安価で大きなスペースを必要としないため、呼気ガス分析装置を有していない施設においても導入しやすいと考えられる。今後、女性、高齢者、有疾患者において、あるいはトレッドミルを用いた多段階運動負荷方式でのプロトコルにおいても本研究と同様の結果が得られれば、ATレベル設定におけるHRVの有用性を確立でき、HRV周波数解析装置の汎用化につながると思われる。