Bスポット療法が自律神経系に及ぼす効果について

第2回臨床自律神経機能Forum

■伊藤宏文(医療法人社団徳照会 いとう耳鼻咽喉科)

【目的】
耳鼻咽喉科領域では上咽頭炎に対する治療法として、1%塩化亜鉛を上咽頭粘膜に塗布、擦過する上咽頭擦過療法(以下Bスポット療法)が行われている。自律神経系への作用機序に関しては、指尖脈波の解析や血中コルチゾールを測定しストレス評価を行った報告はあるが、リアルタイムで心拍変動数解析をおこない、自律神経活動を記録した報告はまだなされていない。今回、Bスポット療法が自律神経活動に及ぼす効果についてReflex名人を用いて解析を行ったので報告する。
【方法】
平成29年7月から10月までに慢性疲労の原因として上咽頭の病巣感染が疑われ、当院を紹介受診した17名の患者さん(平均年齢45.8歳)についてレントゲン検査、内視鏡検査などを行い慢性上咽頭炎と診断した。これらの患者さんに内視鏡下で経鼻法と経口法によるBスポット療法を行い、自律神経活動も同時に記録して心拍変動数解析をおこなった。
【結果】 鼻内の処置をおこない、内視鏡にて上咽頭の診察を開始すると、一時的に交感神経活動が亢進する。経鼻的にBスポット療法を行い、上咽頭天蓋付近に刺激を加え続けると、交感神経活動は沈静化し、副交感神経活動が亢進してくることが観察された。続いて経口的にBスポット療法を行うと絞扼反射がおこり再び交感神経活動の亢進が認められた。
【考察】
従来、慢性上咽頭炎の診断はBスポット療法を行ったときの激しい疼痛と出血によってなされてきた。近年は内視鏡による局所診断によって上咽頭粘膜への粘液付着や粘膜下鬱血、浮腫所見などから診断されることが多い。しかし日常診療でBスポット療法を行うと、擦過時の疼痛が強いことや経口からのアプローチでは絞扼反射が強く出てしまう事などから患者さんに敬遠されてしまう傾向があり、治療継続が困難となってしまうことが多い。Bスポット療法は視床下部―自律神経系に影響を及ぼす可能性や視床下部―脳下垂体―副腎系(ypothalamic-pituitary-adrenal axis , HPA axis)に影響を及ぼす可能性、大脳辺縁系の機能障害の改善に関与する可能性などが、諸家によって報告されている。現在、日本病巣疾患研究会ではBスポット療法の作用機序として①塩化亜鉛の組織収斂作用、抗炎症作用による上咽頭の炎症の鎮静化、②上咽頭擦過に伴う瀉血による上咽頭鬱血状態の改善を介した脳脊髄液・リンパ路・静脈循環の改善、③上咽頭に投射する迷走神経を刺激することによる自律神経系への作用と迷走神経・炎症反射を介した抗炎症作用、の3つの機序が考えられるとしている。
慢性上咽頭炎は交感神経系優位状態にあると考えられるが、患者さんにとっては苦痛を伴い、交感神経系を更に刺激するのではないかと考えられるBスポット療法が、どのような作用機序で治療効果を発現し、副交感神経系への刺激効果を発現しているのかを解明する目的で、今回の検討を行った。
今回の検討によってBスポット療法を経鼻法で行い、咽頭扁桃中央窩付近から上咽頭天蓋付近を1%塩化亜鉛溶液をしみこませた綿棒で擦過した場合には迷走神経刺激効果が認められることが確認された。経口法で上咽頭後壁付近を擦過すると絞扼反射がおこり、交感神経刺激効果が確認された。

 

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