心拍変動解析による臨床研究のすすめ

第2回臨床自律神経機能Forum 

心拍変動解析による臨床研究のすすめ~自律神経を介する臓器連関、評価の試み~

■栗山長門(京都府立医科大学医学部 地域保健医療疫学・神経内科)

我々は、これまで、心電図RR間隔変動解析を用いて、様々な疾患の自律神経活動の特徴を検討してきた。心電図RR間隔の解析では,変動に関与する周波数成分を抽出することで交感神経成分および副交感神経成分の強度をみる周波数領域解析frequency-domainが可能である。高周波成分high frequency(HF)が副交感神経系の指標として、また低周波成分low frequency(LF)をHFの副交感神経系成分で除したL/H比が交感神経系の指標として定量的評価に用いられる(丹羽、栗山.自律神経機能検査 第5版(日本自律神経学会編)。今回、上記心拍変動の解析を介して臓器連関の評価を行い、得られた臨床研究の成果を例示して紹介する。
○【話題1:睡眠という側面からの骨老化について】
骨代謝は、加齢に加えて、さまざまな要因が密接に関連していることが明らかとなっている。我々は、交感神経活動を含め、睡眠と骨量の関連について調査を実施した。住民検診受診者221名を対象に、一日睡眠時間が6時間未満群、6時間以上群の2群に分けて、心拍変動解析(きりつ名人)を用いたHRV自律神経活動、超音波パルス透過法による皮質骨厚と海面骨骨密度、骨代謝関連マーカー、血中レプチン値について検討した。
【結果】 上記2群間で有意差を認めたのは、皮質骨厚と血中TRACP-5b、血中レプチンであった。心拍変動解析のL/H 比は、6時間未満群で亢進が認められた。皮質骨厚とL/H ratio、皮質骨厚と血中レプチンの間には、有意な負の相関、逆に、血中レプチンとL/H ratio の間には、有意な正の相関を認めた。
【結論】 ヒト短時間睡眠が、骨代謝の負の因子であること、レプチン-交感神経系による骨量調節の変化があることが示唆された (Kuriyama N, Inaba M et al. Arch Gerontol Geriatr. 2017.70)。

○【話題2:非変性疾患における自律神経障害ー“治る認知症”特発性正常圧水頭症ー】
非変性疾患における認知症状を呈する疾患の一つとして、特発性正常圧水頭症(iNPH:idiopathic normal pressure hydrocephalus)を取り上げる。iNPHは、シャント手術という治療法が先に見出される一方、“特発性”という名前が示す通り、本疾患の根本的な成因や病態がまだ解明されていない一面を併せ持つ特徴ある疾患である。
【結果および結論】 我々は、 24時間ホルター心電図を用いた心拍変動パワースペクトル法で検討したところ、iNPH (n=18名)は、コントロール群(n=31名)に比して、副交感神経活動の亢進が有意であり、それらは脳脊髄液排除やシャント手術後に正常レベルに回復することが明らかとなった(Kuriyama N, et al. Clin Auton Res 2008.18)。
【今後について】 さまざまな疾患には、多様な多臓器連関が存在することが明らかとなってきている。自律神経評価HRVでのアプローチも、まだこれから活用されるべき研究分野であり、更なる臨床研究での取組みが期待される。

 

 

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