心拍の自律神経調節:進化論的考察

第2回臨床自律神経機能Forum

黒岩義之1),平井利明2)

1)財務省診療所長 / 横浜市立大学名誉教授 / 日本自律神経学会 前理事長 / 帝京大学医学部附属溝口病院神経内科客員教授・脳卒中センター長
2)帝京大学医学部溝口病院神経内科准教授

1.心拍は自律神経系の「窓」
2.心拍は辺縁系の「窓」→心拍は心の窓

A.心臓血管系(中胚葉臓器)の進化
1.心臓も血管もない動物
(1)外胚葉だけしかない一胚葉性動物:扁形動物、線形動物、海綿動物
(2)外胚葉と内胚葉だけしかない二胚葉性動物:刺胞動物(クラゲ)
2.心臓はないが血管がある動物
幼少期のみ左右相称の三胚葉性動物:棘皮動物(ヒトデ、ウニ)
3.心臓(横紋筋)と血管が共にある動物
左右相称の三胚葉性動物:前口動物(無脊椎動物)と後口動物(脊  椎動物)
(1)神経原性心臓(心臓神経節に心臓ペースメイカー)と開放性血管系(毛細血管がない)を特徴とする動物
節足動物(カブト蟹、海老、蟹、蜘蛛、サソリ)
(2)筋原性心臓(心筋に心臓ペースメイカー)と開放性血管系 (毛細血管がない)を特徴とする動物
節足動物(カブト海老のみ)、昆虫、軟体動物(頭足類以外。二枚貝など)、原索動物(ホヤ)
(3)筋原性心臓(心筋に心臓ペースメイカー)と閉鎖性血管系 (毛細血管がある)を特徴とする動物
軟体動物(頭足類のみ;タコ)、環形動物(ミミズ)、脊椎動物

B.心臓の形態の進化
1.血管型:昆虫、原索動物(ホヤ)
2.2室型(1心房、1心室):軟体動物、魚類
3.3室型(2心房、心室):両生類
4.心室中隔が不完全な4室型(2心房、2心室):爬虫類
5.心室中隔が完全な4室型(2心房、2心室):鳥類、哺乳類
➡肺循環(左の心房・心室)と体循環(右の心房・心室)が機能的に独立

C.心臓の自律調節の進化
1.節足動物
心臓興奮性神経伝達物質(アセチルコリン、セロトニン)
心臓抑制性神経伝達物質(GABA、ヒスタミン)
2.軟体動物
心臓興奮性神経伝達物質(セロトニン)
心臓抑制性神経伝達物質(アセチルコリン;ニコチン受容体)
3.脊椎動物
心臓興奮性神経伝達物質(ノルアドレナリン;β受容体)
心臓抑制性神経伝達物質(アセチルコリン;ムスカリン受容体)

D.血管平滑筋の自律調節の進化
1.節足動物;血管は筋肉を持たない
2.軟体動物
血管収縮性神経伝達物質
(前行大動脈➡セロトニン、グルタミン酸、
胃食道動脈・腹大動脈 ➡アセチルコリン)
血管拡張性神経伝達物質(アセチルコリン)
3.脊椎動物
血管収縮性神経伝達物質(アセチルコリン;ムスカリン受容体)
血管拡張性神経伝達物質(ノルアドレナリン;α受容体)
血管収縮性ホルモン (アンジオテンシンII、セロトニン、エンドセリン、ニューロペプチドY)
血管拡張性ホルモン(NO、ヒスタミン、キニン、サブスタンスP、VIP、CGRP)

E.心臓血管系に影響を与える“無脊椎動物➡脊椎動物”の進化
1.赤血球:無➡有
2.微小循環:無➡有
3.血液脳関門:無➡有
4.神経管が腹側、消化管が真ん中で、心臓(背血管)が背側
➡心臓が腹側、消化管が真ん中で、神経管が背側
5.免疫系:自然免疫➡自然免疫/獲得免疫

F.心臓血管系に影響を与えるヒトの進化論的問題
1.直立歩行
2.高次脳機能活動
3.社会的ストレス
4.高齢者の機能低下

目次
閉じる